Relative Valuation

米国株式に入門し、決算報告やそれに伴う株価の上下の報道を読むと直ぐにEarning Per Share(EPS; 1株当たり当期純利益) という指標が株価の上下に重大な影響を与えることがわかる。 Microsoftの四半期報告においても、このようにボトムラインとして投資家に数値を表明している。

Microsoft社 FY22Q2の報告取り上げられるEPS

この株価とEPSの比をP/Eレシオ (PER)といい、株価の評価にも使われる。「ABC業界の企業ならばEPSの10倍の株価ならば適切な範囲だ」といった具合だ。

このように経営上の何らかの指標を取り上げ、似た業態の企業を集計して得られる倍率(相場観)で価値を算出する方法はマルチプル法と呼ばれ、企業の経済活動をモデル化しNet Present Valueを累積して計算するDCF法に対して簡便だ。 ダモダラン教授によると85%のEquity Research Reportで採用されている広く使われる企業価値評価法とのことだ。

マルチプル法の種類

マルチプル法は用途(分子)によって大きく2つに分けられる。ひとつは株式投資家が使う株価を評価するためのマルチプル(Equity Multiple)、 そしてM&Aおよびスタートアップ投資家が使う企業価値を算出するためのマルチプル(Enterprise Value Multiple)だ。

それぞれのマルチプル法においても基準とする経営指標(分母)に何を使うかでいくつか種類がある。

Equity Multiples

P/E Ratio
米国株式投資では、もっとも一般的らしい。日本ではPERのほうが馴染みがあるかも。
Price/Book Ratio
いわゆるPBRのこと
Dividend Yield
配当利回り
Price/Sales
いわゆるPSRのこと。事業成長における再投資額がベンチャーな企業で使いがち。

Enterprise Value Multiples

EV/Revenue
PSRのように事業のトップラインを基準に企業価値を算出する。冒険好きな若い企業の評価に使いがち。
EV/EBITDAR
ホテルや流通業で使うらしい。個人的には見たことない。EBITDAR = Earning before Interest, Tax, Depreciation & Amortization, and Rental Cost
EV/EBITDA
フリー・キャッシュ・フローの代わりに簡便にEBITDAを使った評価をする。DCF法の近似の近似という理屈づけができる。
EV/Invested Capital
投資金額と企業価値の比率。Venture Capitalがファンドの健康状態に同じような指標を使うのを見かけるが、この倍率自体を企業価値評価に積極的に使う印象はない。 EntryからExitまでにどのくらい大きくなろう、とかいう意気込みを設定するときにでも使うのだろうか。

P/Eレシオ (PER)のロジック

DCF法でのTerminal Value設定時のStable Growthモデルと同じように配当を出している企業が安定成長に入っていると仮定した場合、配当割引モデルは、株価 $ \mathrm{P}_0 $ と配当利回り $ \mathrm{DPS}_1 $、安定成長率 $ g $ と 株主資本コスト $ r $ を用いて

\[ \mathrm{P}_0 = \frac{\mathrm{DPS}_1}{r-g} \]

また株主帰属フリーキャッシュフロー $ \mathrm{FCFF}_1 $ に対しても

\[ \mathrm{P}_0 = \frac{\mathrm{FCFF}_1}{r-g} \]

さらに配当性向 $ \mathrm{PR} $ (Payout Ratio) $ = \mathrm{DPS}/\mathrm{EPS} $ に対して、

\[ \begin{align} \frac{\mathrm{P}_0}{\mathrm{EPS}_0} &= \frac{\mathrm{PR} (1 + g)}{r-g} \\ \frac{\mathrm{P}_0}{\mathrm{EPS}_1} &= \frac{\mathrm{PR}}{r-g} \\ \end{align} \]

から $ \mathrm{PR} = \mathrm{FCFE}/\text{Earning} $ なので

\[ \frac{\mathrm{P}_0}{\mathrm{EPS}_0} = \frac{(\mathrm{FCFE}/ \text{Earning})(1+g) }{r-g} \\ \]

Enterprise Value/EBITDAマルチプル

企業が安定成長に入れば先ほどと同様にフリー・キャッシュ・フロー for Firm $ \mathrm{FCFF} $ を用いて

\[ \mathrm{EV}_0 = \frac{\mathrm{FCFF}_1}{r-g} \]

(ただし$ r $ は負債も含めた資本コストWACC)

ここでフリーキャッシュフローは

\[ \begin{aligned} \mathrm{FCFF} &= \mathrm{EBIT}(1-t) - (\mathrm{Cap Ex} - \mathrm{Depr}) - \Delta \mathrm{Working Capital} \\ &= \mathrm{EBITDA} (1-t) + \mathrm{Depr}\cdot t - \mathrm{Cap Ex} - \Delta \mathrm{Working Capital} \end{aligned} \]

であるから

\[ \frac{\mathrm{EV}}{\mathrm{EBITDA}} = \frac{1-t}{r-g} + \frac{\mathrm{Depr}\cdot t/\mathrm{EBITDA}}{r-g} - \frac{\mathrm{Cap Ex}/\mathrm{EBITDA}}{r-g} - \frac{\Delta \mathrm{Working Capital}/\mathrm{EBITDA}}{r-g} \]

また

\[ \mathrm{FCFF} = \mathrm{EBIT} (1-t) - \text{Reinvestment} \]

に対してはEBITDAと再投資の比率 $ h $ と設備償却の比率 $ d $ を使って

\[ \frac{\mathrm{EV}}{\mathrm{EBITDA}} = \frac{1-t}{r-g} - \frac{d(1-t)}{r-g} - \frac{h}{r-g} \]

参考

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